



宮崎県にある日之影町で栗の生産が始まったのは、昭和36年のこと。この地ではもともと自生している山栗が食べられていましたが、昭和46年から本格的に始まった減反政策(米の生産量を調整する制度)をきっかけに、栗の生産が盛んになっていきました。8月中旬ごろから収穫期を迎える日之影町の高千穂ひのかげくりは、Mから4Lまで5段階のサイズの規格があるなか2L以上の大きなものが80%以上を占めています。その理由は、日がよく当たる山間の傾斜地で栽培されているからです。また、土壌の水はけもよいため、他の産地のものに比べて水っぽさが少なく、甘くホクホクとした口当たりのよい栗に育ちます。さらには、美しい黄色の実も特長で、加工菓子などでも人気が高い品種です。




一般的な栗は、可食部100g(栗4〜5個分)あたり36.9gの炭水化物を含んでいますが、糖質の代謝をサポートする働きがあるビタミンB1が豊富です。糖質をエネルギーに変え、疲労回復などの効果も期待できるので、暑さが落ち着いて屋外での活動が増える秋に、行楽のおともにするのもよいでしょう。また、ビタミンCも可食部100gあたりに33mg含まれており、なんとレモン1個分の果汁に含まれる量よりも多いといいます。ビタミンCは本来熱に弱い栄養素ですが、栗のビタミンCはでんぷん質に包まれていることから加熱に強いのが特長です。そのほか、渋皮の渋みに含まれるタンニンは抗酸化作用をもつポリフェノールの1種。さらに、食物繊維やカリウムなどの多様な栄養素も摂ることができ、栗の小さな実には魅力がたっぷりと詰まっています。







「今年の栗は出来がいい」と言ってにっこり笑うのは、栗の生産に携わって60年の大ベテラン・谷川鎮夫さん。谷川さんが案内してくれた栗園では、堆肥を使う代わりにイタリアンライグラスというイネ科の牧草を植えています。これが夏に枯れて肥料となるため、たっぷりと養分を含んだ土壌で栗が育ちます。さらに谷川さんは、収穫の負担を軽くするための専用ネットを開発したり、海外の技術を参考にして、栗のイガをむく機械を導入したりと、部会の生産者たちが高齢になっても栗の生産が続けられるように栗の産地を守る活動も精力的に行ってきました。
栗きんとんなどの高級菓子に使われることが多いという高千穂ひのかげくりですが、蒸して食べたり、栗ごはんにしたり、素材の味を味わう食べ方も絶品なんだとか。また、谷川さんのご自宅で作る小豆あんの代わりに、栗あんを使ったおはぎは、とてもおいしいと評判だと言います。「お菓子屋さんからも『高千穂ひのかげくりは他とは違う』と言われるんですよ。その違いをぜひ、味わってみてください!」



西臼杵郡はいくつかの渓谷が点在しています。中でも有名なのが、「五箇瀬川峡谷(ごかせがわきょうこく)」の名で国の名勝・天然記念物に指定された高千穂峡です。阿蘇山の大爆発により流れ出た火砕流が冷え固まって生まれた、柱状節理という連なった柱のような岩肌が高千穂峡の神秘的な美しさを演出しています。そして、その断崖から碧水へ白蛇のように流れ落ちる「真名井の滝」は高千穂峡のシンボルであり、日本の滝百選にも指定されている滝。滝の近くに設置された滝見台からの絶景を楽しむのはもちろん、貸しボートに乗ってより近くで滝を感じるのも一興です。また、高千穂峡から車で約15分ほどのところには、天照大御神様が隠れたと言われる天岩戸を祀ってある天岩戸神社があります。天岩戸の洞窟を訪れ、神話の世界に思いを馳せながら参拝するのも、旅の良い思い出になりそうです。
