



実から立派な芽が伸びる様子から「縁起モノ」として、おせち料理に欠かせないくわい。ころんとした円球形で、ツヤのある美しい青藍色から、畑のサファイアと呼ばれることもあるのだとか。国産の約7割が福山市で生産され、日本一の生産量を誇ります。もともと福山市内の沼地で自生していたくわいですが、生産が盛んになったのは、江戸時代に新田開発用の用水路が整備されたためです。くわいは、泥の中に植えた親株から生える匍匐茎と呼ばれる茎の各所にできるため、水はとても重要なもの。用水路が整備されていたことと、日照量が多く温暖な気候であることなどから、一大産地としてくわいの栽培が広がっていきました。そんな福山市南部の圃場では、青々と広がっている矢じり型をした葉が反って丸く膨らんでくると収穫に向けて生殖成長が順調に進んでいる証です。くわいは病害のほかに強風も障害となりますが、今年は台風の被害を受けることもなく順調に育っているとのことです。独特のほろ苦さの中にほんのりとした甘みがあり、加熱するとほくほくとした食感がおいしい福山のくわいは、11月上旬から12月下旬までの1ヵ月強で一気に収穫が行われます。福山くわい出荷組合では毎年100トン以上が出荷されています。今年は出来がいいので、おせち以外でも食卓に並べて、福山の食文化を感じてみてください。




くわいはたんぱく質を豊富に含んでいます。100gあたりに含まれるたんぱく質は6.3gと、野菜としては珍しく、豆類に次ぐほどの量です。また、ビタミンEも豊富に含まれており、低脂質のくわいであれば脂質のとり過ぎを気にすることなく摂取できます。そのほか、葉酸や鉄といった血液の健康に関わる栄養素や、むくみ予防に有効なカリウム、免疫機能を強化させる亜鉛など健康効果が期待できる栄養素も含んでいます。






昭和60年頃からくわいの生産をはじめて40年ほどになる喜多村眞次さん。福山くわい出荷組合の組合長として「地理的表示(GI)保護制度」の取得に尽力されるなど、福山産くわいのブランド化を支えてきました。収穫期には、毎日早朝から夕方までかけて収穫や洗浄、選別、箱詰めといった作業を行うそうです。収穫作業は、泥の中で伸びる匍匐茎に生えるくわいに傷がつかないよう、高圧洗浄機で掘り起こし、軽くゴミを取り除いたのち作業場へ運びます。作業場では泥を取り除いたり、何度も水洗いをしたりと、ていねいな工程を経ることでツヤのある美しい青藍色が現れます。「福山の食文化を継承していきたいという思いで、毎日くわいに向き合っています」と話してくださった喜多村さん。広島の名産品として、福山市だけでなく広島市の学校給食にもくわいが使われているそうで、たくさんの子どもたちに食べられていることもうれしいと話されています。「独特の風味とほくほくした食感は、ほかの野菜にはない魅力があります。お正月のおせちでしか食されたことがない方も多いと思いますが、素揚げやチップスなどは手間もかからず、子どものおやつや晩酌のおともにもピッタリです。大人から子どもまで、たくさんの人にくわいを楽しんでもらいたいと思っています」。
※地理的表示(GI)保護制度:その地域ならではの自然的、人文的、社会的な要因の中で育まれてきた品質、社会的評価等の特性を有する産品の名称を、地域の知的財産として保護する制度


映画『崖の上のポニョ』の制作の舞台にもなった港町、鞆の浦。古来から日本の交通の大動脈として多くの船が往来していた瀬戸内海の中心に位置し、江戸時代には要港として栄えた港町です。1859年に建てられた灯台の常夜灯が、そのシンボルとして今も港を見守っています。港沿いには歴史ある建物の趣を活かしたレトロな飲食店が立ち並び、風情ある街並みにはゆったりとした時間が流れています。非日常的な風景を堪能しながら散策をすれば、日頃の喧騒を忘れて癒しの時間を過ごすことができます。
