



農業が盛んな千葉県の山武市。中でも、海側の砂地の土壌を生かして生産されるねぎは、県内トップクラスの収穫量を誇っています。そんな山武市では、2002年に発生した大規模台風により運ばれた海水によって多くの農産物が塩害を被りましたが、ねぎだけは被害がなく、むしろ通常よりもおいしく育ったのだといいます。生産者たちは「海水をかけるとねぎがおいしくなるのかもしれない」と考えて、海水を活用したねぎ作りの研究がはじまったのです。海水をかけて栽培したねぎは太く、やわらかく育つことがわかりました。そして、海水の希釈割合や散布頻度など試行錯誤を経て、海っ子ねぎは2006年に商品化されました。ブランド野菜としての品質を保つため、品種の厳選や、有機肥料をたっぷり使った統一基準での土づくり、農薬使用は県基準の半分以下という減農薬栽培、海水散布のルール設定など、畑での栽培から収穫・出荷までに30項目におよぶ安全管理マニュアルが策定されています。このような生産者たちのこだわりによって、海水のミネラルをたっぷり含んだ、甘くてとろけるような食感の海っ子ねぎが届けられているのです。




ねぎには高い抗菌作用や抗酸化作用をもつ、硫化アリルが豊富に含まれています。また、ねぎをカットすることで硫化アリルの細胞が破壊され、殺菌・抗菌力をもつアリシンという成分に変化します。このアリシンが、ねぎ特有の辛みやにおいとなり、交感神経を刺激して、体温を上昇させることで、免疫力アップにつながるとされています。また、ねぎの葉には粘膜を保護する作用を持つビタミンAに体内で変化することで知られるβ-カロテン、血液の凝固や骨づくりに欠かせない栄養素であるビタミンKも多く含まれています。葉先までしっかり食べることで、フードロス対策にもなり、冬の風邪予防効果も期待できます。






会社勤めを経て、9年ほど前に家業の農家を継ぎ、ねぎの生産者となった石井剛さん。「海水を畑に撒くのですが、舐めてみたらしょっぱくて!こんなの撒いちゃって本当に大丈夫!?と、最初はびっくりしたんですよ(笑)」と、生産を始めたばかりの頃の思い出を語ってくれました。九十九里海っ子ねぎは5月に定植が始まり、収穫まで7〜8カ月かかります。9月からは、ねぎの成長に合わせて、10アールあたり150L以上の海水を2週間に1度、5回以上散布しているそうです。「親戚やご近所さんからは『普段食べているねぎよりも甘くて、食感もやわらかくていい』と好評ですよ。納豆や味噌汁にいれる定番の食べ方はもちろん、海っ子ねぎが主役のねぎ鍋にして食べると、魅力を堪能してもらえると思います。有機肥料だから、一般的なねぎよりも成長がゆっくりで出荷に時間がかかりますが、安全・安心な品質を保って、ブランド力を高めていきたいですね。まずは食べてみて、おいしさの違いを感じてほしいです」


海にぐるりと囲まれた千葉県の房総半島東岸にある九十九里浜は、「日本の渚100選」にも選出される日本を代表する砂浜です。66kmもあるこの砂浜は、かつて源頼朝の命で1里(約650m)ごとに矢を立てたところ、99本に達したことから九十九里浜と名付けられたといわれています。千葉県の旭市の刑部岬から、いすみ市の太東岬をつなぐ九十九里浜のほぼ中央に位置する山武市の浜から見る、さえぎるもののない美しい水平線は絶景です。
