



温暖な気候を生かしアスパラガス生産に力を入れている香川県で、オリジナル品種の開発が始まったのは1996年のことです。試験栽培を重ねて、2005年6月に「さぬきのめざめ」として品種登録されました。一般的なアスパラガスの長さは25cmほどですが、さぬきのめざめは長さ30cmが規格のサイズとなります。さらに、ロングサイズの規格は50cmと、一般的なものの2倍にもなる大きさでも出荷されています。アスパラガスは成長すると葉を大きく広げて木のように育つため、茎が固くなってしまいますが、さぬきのめざめは穂先が開きにくい品種で、一般的なアスパラガスに比べて、太く長くなるまで時間をかけて育てることができるのです。また、収穫時には断面から水がにじむほど水分を多く含んでいて、根本までやわらかく調理時に皮をむく必要がありません。春芽は特に糖度が高いため、甘くてジューシーなのが特長です。新鮮なものは、サラダなど生で食べることもできます。




アスパラガスの特徴的な栄養素といえば、なんといってもアスパラギン酸です。アスパラガスから発見されたことでその名がついたアミノ酸の一種で、旨みのもとになっている成分です。アスパラギン酸はたんぱく質の合成を助け、新陳代謝を促進することで、疲労回復に役立ちます。そのほか、アスパラガスからはコラーゲン生成に必要なビタミンC、若返りのビタミンと言われるビタミンEも摂ることができ、アスパラギン酸との相乗効果で美肌効果も期待できます。そのほか、葉酸やビタミンKといった健康に欠かせない栄養素も豊富です。さらに、穂先に多く含まれているルチンは、毛細血管を強化し血流を改善する作用がある栄養素ですが、ビタミンCと一緒に摂ることで機能が増強され、抗酸化作用がアップします。アスパラガスは、元気に活動し、若々しい体を保つのにぴったりの野菜といえるでしょう。







「10年ほど前は市場に持っていっても、『普通のアスパラガスと何が違うの?』という反応でした。それでも、『甘くておいしい香川オリジナル品種』に誇りを持って出荷を続け、今では『さぬきのめざめが欲しい』という声をたくさん聞けるようになりました」
そう語ってくれたのは、綾坂地区アスパラガス部会で60人ほどの部員を束ねる部会長の池田和外さん。部会は綾坂地区にある香川県の農業試験場との交流もあり、意見交換などをしながら生産に向き合っているそうです。
50歳を前に早期退職し、家業を継ぐ形で就農した池田さんが、「若いけれど、アスパラガス生産歴はほぼ同期なんですよ」と紹介してくれた吉田和宏さんの圃場を見学させてもらいました。一晩で10cm近く伸びることもあるほどアスパラガスは成長が早く、収穫のタイミングを逃すと品質が落ちてしまうため、1月から10月末まで毎日収穫が続きます。特にピークを迎える夏場には、朝夕2回の収穫が欠かせないそうです。連日収穫をしなければならないにもかかわらず、一般的なアスパラガスは畦が低く、かがんで収穫することで腰などを痛めてしまうという問題がありました。さぬきのめざめは全国に流通するブランド野菜を目指して、独特の高い畦や、座ったまま収穫ができる滑車付きのいすを開発するなど、生産量を増やすための取り組みを行っています。こうして安定した生産が可能になり、多くの人にさぬきのめざめを食べてもらえるようになったそうです。「根本ほど甘いんですよ」と、吉田さんはさぬきのめざめをポキポキと折って食べながら、「下10cmくらいを切ったさぬきのめざめを3、4本フライパンに並べて、油をかけてコーティングしてから強火で3分。ひっくり返して30秒ほど焼くと、塩をかけるだけでびっくりするほどおいしいですよ!」と、をおすすめの食べ方を教えてくれました。



香川県坂出市で1789年に創業した鎌田醤油では、坂出駅前にある蔵元近隣に3つのミュージアムを有しています。それが、郷土史料を扱う「鎌田共済会郷土博物館」と醤油画の技法で描かれた作品を展示する「小沢剛 讃岐醤油画資料館」、そして昭和初期に迎賓館として使われた「淡翁荘」にある「四谷シモン人形館」です。10代から人形作りを始め、ドイツの芸術家ハンス・ベルメールの影響を大きく受けるなどして球体関節人形と呼ばれる技法に行きつき、日本を代表する人形作家となった四谷シモン。香川県内での展示に訪れた鎌田醤油の当時の社長との出会いによって、2004年から淡翁荘で常設展示が行われることになりました。2014年に登録有形文化財に指定された歴史ある洋館で、1970年大阪万国博覧会に出展された「ルネ・マグリットの男」をはじめとする四谷シモンの主要作品を見ることができます。和洋のテイストが入り混じるモダンな館内に工夫をこらして展示された人形たちは、不思議と愛らしく、見る人を幻想的な世界に誘います。
